昨年11月19日付け日本経済新聞によると、厚生労働省は、未払賃金の消滅時効を現在の2年から5年に延長することを検討しているとのこと。

もし、本当に消滅時効が2年から5年に延長された場合、どのようなことが起こるのか?

弁護士の向井蘭さんは、次の8つのことが起こるのではないかと仰ってます。

①監督署への申告が増える

②多くの法律事務所が未払い残業代請求分野に参入する

③未払い残業代請求のテレビ・ラジオCMが流れる

④訴訟が長期化する

⑤訴訟件数は増えず訴訟外の和解が増える

⑥名ばかり管理職問題が増える

⑦厳格に労働時間管理を行う企業が増える

⑧未払い残業代請求をきっかけにした廃業が増える

確かに、2年の時効が5年に変わるということは、ひとりあたりの平均未払い残業代が2.5倍になる可能性があります。これら8つのことは起こっても不思議ではありません。

未払い残業代を計算してみる

月給40万円で、月の所定労働時間は160時間。しかし実は月80時間(1日4時間)の残業をしており、残業代は支払われていない場合の未払い残業代を、(怖いですけど)計算してみましょう。

時間単価:40万円÷160時間=2500円/時間

未払い残業代:80時間×2500円×割増率1.25=250000円

あ、そうでした!月60時間超は割増率は1.5倍でしたね。この割増率は、現在は大企業だけが適用されており中小企業は猶予されていますが、この猶予も早晩なくなる予定です。

そうすると、

60時間まで:60時間×2500円×割増率1.25=187500円

60時間超部分:20時間×2500円×割増率1.5=75000円  合計262500円

これが月額ですので、1年間で、262500円×12月=315万円。

現在の消滅時効2年間の場合、

315万円×2年=630万円

これでも大きいですが、時効が5年間となると、

315万円×5年=1575万円(!)にもなります。

これが、ひとりあたりの額です。本当におそろしい額です。

じゃあ、何をしておけばよい?

①賃金制度を見直す。

さすがに、本給のみ(「うちの給与は、残業代も含んでるんだよ」)という企業は少なくなっていると思いますが、意味不明の手当をたくさん支給している企業はよく見ます。残業代を支払っていないということばかりでなく、残業代は支払っているが、残業単価が間違っている(手当が含まれていない)ケースもよく見ます。これも未払い残業が毎月発生していることになります。

「固定残業」として、たとえば30時間分の残業代を付けて、それを超える場合は別に残業代を付けるというのはOKですが、「みなし残業」といって、たとえば30時間分の残業代を付ける(それを超えても別途の残業代を付けない)というのはNGです。

「固定残業」とする場合も、就業規則や個別の労働契約で明示し、さらに給与明細にも明示しておく必要があります。

②管理職と非管理職の区別を明確にする。

管理監督者は、管理監督者は法律上の労働時間等の制限を受けませんが、管理監督者に当てはまるかどうかは役職名ではなく、その社員の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて実態により判断します。
〇経営者と一体的な立場で仕事をしている
〇出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
〇その地位にふさわしい待遇がなされている

これらにあてはまらない人は、社内で管理職とされていても残業手当や休日出勤手当が必要です。

③裁量労働制、フレックスタイム制、変形労働時間制(1年単位、1カ月単位等)を活用する。

変形労働時間制をとることにより、繁忙期にはしっかり働き、閑散期やお子さんの夏休みには仕事時間を短くする等、メリハリを持った働き方が可能となります。働き方改革の一環として検討してみてください。

④いずれの方法を取るにしても、時間管理をきちんと行う。(未払いの部分をなくす。)

いずれの方法を取るにしても、時間管理は避けて通れません。管理監督者や裁量労働制適用の社員であっても、労働安全衛生や健康上の観点から労働時間の管理は必要です。

顧問先でも、これまで時間管理をきちんと行ってこなかった会社が実態調査をしてみると、会社が思うほど長時間労働ではなかったことが判明したケースや、合理的な働き方に目を向ける社員が増えたケースがあります。勇気をもって時間管理していただきたいと思います。ご相談、承ります!

 

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