厚生労働省が「副業・兼業」について検討

厚生労働省が、企業の社員が別の会社でも働く「副業・兼業」を容認する方向で、法律改正も検討しているようです。

政府は、10月より「柔軟な働き方に関する検討会」というものを開催し、政府が推進している「働き方改革」を推進するための柔軟な働き方について検討しています。

11月20日には第4回が開催され、その際に、「副業・兼業に関するガイドライン骨子(案)」が資料として提出されました。

副業・兼業といえば、一般的には、企業は就業規則で禁止しています。約8割の企業は副業・兼業を禁止しているのが現状のようです。

副業・兼業のメリットと留意点は?

ガイドラインでは、従業員側のメリットとしては、次の4つがあげられています。
① 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
② 本業の安定した所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。
③ 所得が増加する。
④ 働きながら、将来の起業・転職に向けた準備ができる。

企業側のメリットとしては、次の3つがあげられています。
① 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
② 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
③ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

また、留意点としては、従業員側も企業側も、長時間労働になりがちな就業時間の把握・管理や健康管理への対応、秘密保持義務、競業避止義務の関係が問題とされています。

「副業・兼業」についての現行法律上の問題点は?

実は、現行の法律上、副業・兼業はあまり現実的ではないことを要求しています。

1.労働時間の管理

副業・兼業をした場合、労働基準法は、双方の時間を合算して労働時間を考えろということになっています。

たとえば、A社で5時間働き、B社で5時間働いた場合、2社の合計で10時間働いたことになります。すると、現行の法律では1日8時間以上働くと割増賃金を支払わねばなりませんので、B社で働く4時間目と5時間目の2時間は、B社が割増賃金を支払わねばなりません。B社では5時間しか働いていないのですから、B社としては割増賃金を支払えと言われても納得のいかない話しです。第一、A社で何時間働いたかをB社が把握する、従業員本人が申請するなど、現実的ではありません。

2.労災保険

労災保険は、労働者が副業・兼業をしているしていないに関わらず、企業に雇用されている人全員に適用されるので問題はなさそうに見えます。

ただ、もし先の例のA社でもB社でも5時間働いているようなケースでA社で労災事故が起こった場合、治療代については問題なく支払われるとしても、休業補償等はA社の賃金だけで判断されます。労災事故で就労不能となった場合、「A社では働けないが、B社ではこれまで通り働ける」はずはありません。B社も休業することになりそうですが、A社分の賃金をベースにしか休業補償されません。

3.雇用保険

企業は①1週間の所定労働時間が 20 時間未満である者、②継続して 31 日以上雇用されることが見込まれない者、以外は雇用保険の被保険者としなければなりません。兼業・副業となると、双方共の会社で週20時間未満となり雇用保険の対象とならない場合があります。また先の例のようにA社もB社も両方とも週20時間以上働いているようなケースでは、「主たる賃金を受ける雇用関係についてはのみ被保険者となる」とされているので、どちらかを選択することになります。

4.厚生年金保険・健康保険

社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、やはり事業所毎に判断するため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合、労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、適用されません。

また、同時に複数の事業所で被保険者要件を満たす場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択しなければなりません。

この場合、事業主は、各事業所が被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(医療保険者が健保組合の場合は、健康保険料は選択された保険者に納付)することとなりますので、前述のA社B社の例でいうと傷病手当金等の額が1社分だけということはなくなります。しかし、関連会社や取締役でもない限り他の企業でいくらの賃金を支払われているか報告してもらうのはなかなか現実的には難しいように思います。

労働基準法については、政府は2018年から学者らと検討を始めて、早ければ2020年には法律改正の可能性も含めて原案を出す予定のようです。以上の社会保険上の問題も、検討されることと期待しています。

 

 

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